寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない


 寄り添うテオとセレナの姿をそっと一瞥し、ふたりに気づかれないよう口元を歪めた。
 シャルル公爵の服装をちらりと見たセレナは、折り返した袖口に丁寧な刺繍が施されているのに気づき、見入った。
 ミノワスターでもランナケルドでも手に入らない色合いの糸が何種類も使われている。
 高価な糸をふんだんに使った刺繍は立体的で美しく、その腕前にセレナは感心した。
 公爵だと紹介された時点で彼が裕福な生活を送っているだろうとわかるが、この刺繍からも、羽振りの良さは一目瞭然だ。
 シャルル公爵は、再びセレナを見ると、すっと表情を和らげた。

「国の慶事ですから今日は工事を止めていますが、明日からはランナケルドからの水を流す水路の工事が再開します。完成の式典には、おふたりからお言葉をいただく事になっておりますので、よろしくお願いします」
「ああ。あと数日で完成すると聞いてるが」

 テオの問いに、シャルル公爵は何度か頷いた。

「ほぼ完成しております。明日水路を開通させまして、最後の工事を行う予定です」
「そうか、この一年、ご苦労だったな」

 テオはねぎらいながらも、シャルルの言葉にうさん臭いものを感じていた。
 会議や式典で会うたび、心を許してはならないと警戒しているのもたしかだ。

「それでは、完成記念式典の時には、よろしくお願いいたします。……あ、そうそう、アリスも殿下の幸せをお祈りしていると申しておりました。さきほどの結婚式ではお声をかけられなかったと残念がっております」
 
 ふと思いついたようにシャルルは口にしたが、その言葉を聞いて、テオは顔をしかめた。
 長年、シャルルは娘のアリスをテオの妃に据えようと躍起になっていた。
 アリスはミノワスターの美しきバラと呼ばれるほどの美貌の持ち主で、数多くの名家から結婚の話が持ち込まれるほどだ。
 ここ数年、アリスはテオとともに公の場に顔を出す機会が増え、テオの寵愛をひとり占めしていると噂になっていたのだが。
 結局、テオはセレナと結婚した。
 おまけに、アリスはやけになったのか下位の貴族との結婚を決めてしまった。
 ランナケルドの王配となったとしても、テオの側妃として娘を差し出し力を広げようと考えていたが、その思惑はあっという間に崩れてしまった。
 テオはミノワスターの王太子となり、王太子妃には予定通りセレナが収まった。
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