寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない


 結婚式の夜。それは特別な夜だ。
 セレナもその意味は理解していて、テオに抱かれる覚悟はとっくにできている。
 ここ数日はその事を考えるたび緊張して顔が強張っていた。
 今もいよいよだと思うと心臓がバクバクしている。

「い、痛いっ。そんなに引っ張ったらはげちゃう」

 鏡台の前に座らされているセレナは大声を上げた。
 セレナは長く豊かな金髪を梳く侍女の手から逃げようともがく。

「はげません。普段からもう少し肌や髪に気を遣っていただくようにお願いしていたのに。あ、逃げないでくださいませ。この後香油をすりこみますからね」
 
 側で様子を見ていたラーラがぴしゃりと言い放つ。

「えー、香油は苦手なの。だからやめて欲しいんだけど」
「やめません。香油を塗るのはセレナ様のためだけではなく、殿下のためでもあるのす」

 晩餐会を辞した後、セレナはラーラと侍女たちによって湯あみをさせられ、これでもかというほど念入りに体を洗われた。
 これまで侍女の手伝いなくひとりで湯あみしていたセレナには最高に恥ずかしい時間だったが、ラーラの「今キレイにしておかなければ今晩もっと恥ずかしいですよ」という言葉によって降参し、泣く泣く侍女たちにすべて任せる事にした。
 しかし自分自身に構うことなく必要最低限の手入しかしてこなかった肌はうっすら日焼けが残っている。
 それでも、生まれながらなのか肌のきめは細かく輝いている。

「はい、サラサラですよ」

 しっかりと櫛を通した髪は金色に輝き、侍女たちはほーっとため息をついた。

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