寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
「……セレナ。俺のセレナ……」
キスの合間にテオは呟く。
ようやく自分の妻となったセレナが愛しくて仕方がないのだ。
テオが初めてセレナと会ったあの日、まだ子供であるにもかかわらず彼女の顔は美しく、生き生きとしていた。
第二王子として軽やかに生きていたテオは、王位はもちろん、ミノワスターの何も望むことなく、そして王家がつつがなく発展していけるよう、権威とは離れた場所で生きていた。
王太子にはカルロがふさわしいと思っていたのもたしかで、見た目はいいが出来の悪い第二王子を装っていたのも、すべて王位に絡む争いを避けるためだ。
亡き前王妃の忘れ形見であるカルロを推す諸侯たちと、現王妃の息子であるテオを支持する諸侯たち。
それぞれに思惑があり、どちらが優位になるとしても苦しむ国民は多い。
テオは無駄な争いが起きないよう、王太子には興味がないと公言し、いつか自分は他国に出ようと考えていた。
自分がミノワスターにいない方が国のためになると考えていたのだ。
そして、いずれ国を離れるのなら、手元には何もない方がいいと思い、極力何も持たない生活を続けていた。
王城のテオの部屋にあるのは、ベッドと作業机程度で、王族の部屋とは思えない殺風景な部屋だ。
クローゼットに吊られている服も少なく、身軽というよりも寂しさをも感じさせる。
身軽なのは、女性との関係も同様だった。
見た目の良さと王子という肩書ゆえに近づいてくる女性は多かったが、どの女性もテオの気持ちを揺らす事はできず、テオにとってはただ面倒なだけの存在だった。
近い将来王族から離れて他国に行こうと考えているテオについてくる女性はいないだろうと、笑顔を振りまきながらも心は冷めていた。
王位にも王族にも興味がなかったテオは、一刻も早くカルロに王位に就いてもらい、自分はミノワスターから出たいと、そればかりを考えていたあの日。
ランナケルドでの晩餐会に招待されたテオは、カルロと共に顔を出したが、予想通りの退屈さに辟易し、会場から抜け出して静かな森の中にある離宮まで足を延ばしていた。
そこで、セレナに会ったのだ。