寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない



「セレナ様、白い月がキレイですね」
「本当。満月には早いけど、みとれちゃうわね」

 舞踏会の会場から抜け出したセレナは、侍女のエミリとともに庭園を歩いていた。
 王妃が好んで植えたというバラがキレイに咲き、辺りには甘い香りが漂っている。
 バラの他にも何種類かの花が咲いている夕刻の庭園は昼間とは違う雰囲気を醸し出している。
 その中をゆっくりと歩きながら、セレナは気持ちを落ち着けようとするが、なかなか難しい。
 ようやく完成した水路を記念した舞踏会なのだ、不機嫌な顔やテオに自分の感情を押し付けたくなくて出てきたが、こうしている間にもテオがクラリーチェと笑い合っているのかもしれないと思えば心は騒ぐ。
 今すぐテオの隣に戻りたいと、何度もバルコニーを振り返った。
 舞踏会のざわめきは庭に届き、セレナと同じように舞踏会から抜け出してきた貴族たちの気配を辺りに感じる。
 気づけば、セレナは庭園の中でも一番キレイにバラが咲き誇っている場所にいた。
 目の前には、香りの強い種類のバラが鮮やかに咲いていて、ふと結婚式の日を思い出した。

「この香り……」

 立ち止まりバラの花に手を添えたセレナに、エミリが答えた。

「そのバラは王妃様がとくにお気に入りのバラで、ラーラさんが大切に育てているんですよ。結婚式の後の湯あみの時にもたくさん湯に浮かべました」
「そうだったの」

 確かにこの香りだ。

 いよいよテオと初めての夜を過ごすことになり、緊張していたあの日、セレナはラーラや侍女たちに体を清められ、磨かれ、恥ずかしくてたまらなかった。
 湯に浮かんだたくさんのバラの香りがその場に立ち込め、気持ちがふわふわと揺れていた。

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