寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
瞬間、それまで近くにいた警護の騎士たちがさっとセレナの近くに駆け寄る。
エミリもセレナの傍らに立ち、辺りをキョロキョロと見回した。
「セレナ様、大丈夫です」
騎士が辺りを警戒しながら小声で呟くと、セレナも緊張した面持ちで頷いた。
すると、かさかさという音と共にいくつかの人影が地面に延びた。
「これはこれは、セレナ王太子妃殿下ではございませんか」
耳触りの悪いざらついた声とともにセレナの前に立ったのは、今話していたアリスの父であるシャルル公爵だ。
燕尾服に身を包んだ恰幅の良い体は丸々としていて、バラが咲き誇る庭には不似合いだ。
セレナは騎士たちの背後からシャルル公爵の姿を覗き見る。
絶えず笑顔を浮かべているが、それは明らかに作り笑顔で、ずる賢い性格が顔に現れている。
数百年の昔を遡れば、王室に輿入れした女性もいるという血筋を背景にして、国政に口を出す図々しい男。
以前、テオがシャルル公爵の事をそう言っていたことを思い出した。
セレナの姿を値踏みするように上から下まで見る視線も寒気がしそうだ。
この場にこのタイミングで現れるのは、偶然ではないかもしれない。
数人の騎士たちに守られ、訝しげに自分を見ているセレナに、シャルル公爵は笑顔を深めた。
「今、娘のアリスの名前が聞こえましたが、残念ながら今日はお声をかけていただけなかったもので、こちらにはおりません。これまでですと、いつも王太子様の隣に立っていたのですが……。まあ、たしかに、招待されましても、王太子妃様にとっては心地よい存在ではございませんから。あ、これは余計なことを申してしまいました」