寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない


 シャルル公爵の芝居じみた様子のおかげでセレナの心はすっかり落ち着いた。
 過去にテオが想いを寄せた女性がいたのならば、それを受けとめるしかない。
 クラリーチェへの一途さばかりを目にしていたが、セレナが気づかなかっただけで、テオは噂どおりの華やかな恋愛を経験していたのかもしれない。
 セレナへ優しい笑顔と慈しみ深いふれあいを与えていたのも、テオにとっては大したことではないのだろう。
 そう思った途端、セレナの心は重苦しい何かが溢れて息が詰まりそうになった。
 テオと結婚できたことだけで幸せだというのは詭弁だったと改めて実感し、どっと落ち込んだ。
 しかし、両親からの愛情を満足に得られなかった彼女は、諦めることには慣れている。
 求めても手に入らないものがどれほど多いか。
 子供の頃から多くの事を学び、身に着けてきたが、彼女が誰よりも長けているもの、それは諦める事と欲しがらないという事だ。
 いずれ大国の王妃となるセレナにとって、それは長所となりうるものだが、どれほど切ないものだろう。
 今も、興奮し乱れた呼吸を繰り返すシャルル公爵に心が乱されないよう、気持ちを落ち着けている。
 意識して気持ちを鎮めれば、たいていのことは諦められるのだ。
 これまでそうやってやり過ごしてきた。
 けれど、テオを諦められるのか、自信がない。
 テオに抱かれるたび体に満ちる幸せが、セレナを弱くし、諦める強さを削いでいくのだ。
 次第に不安定になる心を保つためにセレナがふっと息を吐き出した時。

「テオ殿下は、国がもっとも必要としている水を手に入れるために、セレナ様と結婚されたのです」 

 セレナを傷つけようとするシャルル公爵の言葉が夕刻の赤い日差し溢れる庭に響いた。
 セレナは動きを止め、表情を無くした。
 目を背けていた現実が、悪意のある声音でセレナに迫る。

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