寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
そう、子供の頃のほんの一時期、まだ元気で寝込むことがなかった頃は、セレナよりも活発だったのだ。
セレナが活発で強い女性として名前を知られるようになったのは、そんなクラリーチェへの憧れがあったからだ。
そして、クラリーチェのようになれば……両親から認められるだけでなく、初恋の相手であるテオが、セレナを好きになってくれるに違いないと思ったからだ。
クラリーチェの婚約者として彼女を大切にし、たびたびランナケルドを訪れてはクラリーチェに愛しげな瞳を向けていたテオ。
セレナはテオがクラリーチェを愛しているとしか思えなかった。
病弱で部屋に閉じこもりがち、そして色白のクラリーチェだが、本来の彼女は子供の頃のような活発で頑固な女性だ。
人の心の機微に敏感なテオのことだ、クラリーチェの本質にも気づいているはずだと思っていたセレナは、たとえ結ばれることがなくてもテオに好かれたい一心で馬に乗り剣を振っていた。
……だけど、それももう、必要ない。
どんなにクラリーチェのようになろうとしても、自分には無理だとわかっている。
ひがむつもりはないが、誰もがクラリーチェを愛し彼女を慈しむ。
テオも、きっと。
たとえセレナを妻として大切にし、愛情を与えてくれるとしても、クラリーチェへの封印した想いを抱えたうえでのことだ。
今もテオはクラリーチェを愛しているはず。
どれだけテオに抱かれても、彼がクラリーチェに向けていた愛を、セレナは忘れることができないのだ。
ソフィアの気づかわしげな視線に気づきながらも考え込んでいると、侍女がやって来た。
彼女はセレナを気にしながら、ソフィアに小声で囁いた。
「奥様、アリス様がお越しですが、どういたしましょうか」
「あら、今日はお約束していないのに、急にどうしたのかしら」
セレナは、アリスという名前に聞き覚えがあった。
水路の完成を祝う舞踏会で厳しい言葉を口にしていたシャルル公爵の娘だ。
サウス伯爵との結婚を控え、慌ただしい毎日を過ごしているアリスは、テオを通じてソフィアと知り合い、仲良くなったのだ。