寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
「セレナ様、申し訳ありません。少し席を外しますね。すぐに昼食の用意もできますので……」
慎重にソフィアがセレナを見る。
テオとの噂があった女性が来たのだ、気を遣うのも当然だ。
「私の事は気にしなくて構いません。どうぞ、アリスさんと……」
「あら、お客様ってセレナ王太子妃だったんですか」
セレナが言い終わらないうちに、明るい声が響いた。
「思い立って来たんだけど、よかったわ。一度ゆっくりお会いしたかったの」
「アリス、突然どうしたの」
足早に部屋に入ってくるアリスに、ソフィアが慌てる。
「ふふ。ウェディングドレスの試着をするために近くまで来たんです。屋敷に来てもらうよりも、出向いた方が手直しもできるので手っ取り早くて。あ、ソフィア様が読みたいっておっしゃってた本が手に入ったのでお持ちしました」
「あら、それはわざわざありがとう」
「で、どうしてここにセレナ様が……あ、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。トルノー家の長女、アリスでございます」
アリスはドレスの裾を両手つまみ膝を折ると、ゆっくりと頭を下げた。
「先日は父が王太子ご夫妻に失礼な事を申し上げ、失礼いたしました。本当に申し訳ございません」
アリスは本気で謝っているとわかる真剣な声で言葉を続けた。
あの日のシャルル公爵の失態は、あの場にいた貴族たちの口から静かに広がっているが、テオとアリスが親密な関係であったと誰もが思っている事もあり、娘を想う父の悲哀ゆえの出来事だと同情されていた。
どちらかといえば、隣国の王女との結婚が決まっているというのに女性関係に奔放なテオを非難する声の方が多いのもたしかだ。
テオはそれを気にする事なく受け流し、アリスとは何もなかったと言っているが、もしかしたら彼女の方は納得していないのかもしれないと、セレナは身構えた。
しかし、顔を上げたアリスはセレナとの距離を詰めると、親し気に笑った。
「ようやくセレナ様と結婚できて人生で一番幸せな時間を過ごしているのに水を差すような事をしてしまって……父って本当に短絡的で周りが見えないというか、本当に親バカですし、しょっちゅう問題を起こすんですが。今回ばかりはなんて事をしでかしたんだと叱りとばしておきました。テオ殿下は今も昔もセレナ様だけに夢中な面倒くさい男だとも言っておきましたので、ご安心くださいませ」