寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
「大声を出さないでよ。それに、私は褒めてるの。しつこいくらいに一途にひとりの女を求めてそのためだけに長い時間を費やして。手に入るかどうかわからないし、国の一大事になるかもしれないっていうのに、強引にすすめるなんて、普通できないわよ」
強い口調でテオの言葉を遮ったアリスは、浅い呼吸を何度か繰り返した。
艶のあるピンクブロンドの長い髪を背中に揺らし、色白の肌は手入れが行き届いているのか輝いている。
細いだけでなく、丸みが必要な場所にはほどよくボリュームもある身体は女性から見ても魅力的だ。
そして、自分の言葉や行動に自信があるような姿は気持ちがいい。
「……お姉様みたいだわ」
セレナの口から洩れた小さな声は、誰に届くわけでもなかった。
けれど、セレナはこれまで感じていた不安の理由に思い至り、納得がいった。
アリスを見た瞬間から感じていた不安の理由は、それだったのだ。
髪の色も立ち姿も目の力強さも。
クラリーチェに似ているのだ。
それだけでなく、アリスと話すテオの表情も声も、クラリーチェを前にした時のものと同じ。
セレナには決して見せる事のない気安さが、自然に溢れている。
セレナはそっとテオを見上げた。
その顔は、やはりクラリーチェに向けられていたものと同じだった。
セレナはふたりに気づかれないよう、ふっと息を吐き出した。
わかっていたはずだと自分に言い聞かせても、テオが心を開き、自然な姿で向き合えるのはお姉様だと実感して苦しくなった。
その後、アリスとの仲を周囲に誤解させ、それぞれの想いを成就させようとしていたとテオから聞いたが、その相手がだれでも良かったわけではないだろう。
セレナはそれを察してさらに落ち込んだ。
クラリーチェへの愛を捨て去ることができなかったテオは、彼女に似ているという理由でアリスを選んだのかもしれない。
顔だちも似ているふたりだ、テオは叶わぬ恋心を慰めるように、アリスと一緒にいたのだろう。
その事を責めることはできない。
たとえテオの婚約者であっても、クラリーチェはカルロを愛していた。
カルロもクラリーチェを愛していたはずだ、そう、セレナに対するよりも強い想いで。
セレナを手に入れるためにテオはぶれずに頑張って来たと何度も聞かされたが、セレナはその意味をようやく理解できたような気がした。