寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
「お待たせ」
セレナが小走りで城の玄関に行くと、既に出発の準備を整えていたセレナの警護である騎士ミケーレが馬の手綱を手渡した。
銀色に近いグレーの毛並みが春の日差しに輝く馬は、ベスと名づけられたセレナのお気に入り。
彼女の十五歳の誕生日に、隣国の王子テオから贈られて以来仲良くしている。
穏やかな気性だが体力があり、長距離でもスピードを落とさず走り続ける優秀な馬だ。
セレナは馬の腹を優しく撫でると「今日も仲良くしてね」と声をかけた。
ミノワスター王国の王太子カルロとの婚約が交わされて以来、セレナの誕生日にはカルロからはもちろん、カルロの弟であるテオからもプレゼントが届いているが、ベスだけでなくどれもセレナを喜ばせている。
手先が器用でなんでも自分で作るセレナが喜ぶものをと考えたのか、キレイな布や刺繍糸、異国で作られたに違いない珍しいボタンなどが贈られることが多かったが、最近はそれに馬が加わった。
セレナは子供のころから騎士に交じって乗馬の訓練をしていたが、遠出ができるようになったタイミングで届いた馬に、セレナは大喜びだった。
その日以来、「ベス」と名付けた愛馬を大切にしているのだ。
「セレナ様がご用意された品々は、既に市場に運んでおります」
鐙に足をかけ、軽い身のこなしで鞍にまたがったセレナに、ミケーレは声をかけた。
セレナは自分の趣味である裁縫や編み物を役立てようと、鮮やかな色の布や糸が手に入るたび洋服やカーテンを作ったり、真っ白な布に複雑な刺繍をほどこしたハンカチやテーブルクロスなどを作っては市で売っている。
たくさんの商品が並ぶ市の中でも、セレナが作ったものは人気があり、露天に並べばすぐに人だかりができ、即完売。
安価だということも手伝い、次回を心待ちにしている客は多い。
今回も、王族としての仕事で忙しい合間にせっせと作り上げ、ひと足先に市へと向かった侍女にそれらを預けてある。
売り上げはすべて、親を亡くしたり、事情があって親と離れて暮らさなければならない子供が安心して暮らせるようにと、セレナが先頭に立って運営している施設に寄付している。
それだけでなく、騎士たちを警備にあたらせ、子供たちが安心して過ごせるよう配慮している。
セレナは体を馬になじませながらふうっと息を吐き出した。