寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない


 こうして愛馬に身を任せれば、重苦しい感情も少しずつ癒やされていく。
 陛下の執務室で耳にした言葉に心は痛んだが、今日初めて聞いた言葉ではない。
 わかっていた事だと気持ちを落ち着け、ベスの腹を軽く蹴った。

「天気がいいし、今日は暖かいから、きっとたくさん売れるわね」

 セレナは手綱をさばきながら気持ちを切り替え、ミケーレに笑顔を向けた。
 今日は月に一度開かれる市の日だ。
 たくさんの露店が並び、人々が集まる。
 農民たちが丹精込めて作った農産物や、工芸品が売られ、国外からも多くの商人が集まる。
 普段見ることのない珍しいものも多く、その中には隣国ミノワスターで採掘される宝石もあり、見るだけでも楽しめる。
 馬に乗ったミケーレと騎士たちが、セレナの隣に並ぶ。
 セレナの護衛として側に仕える騎士たちだ。
 ランナケルドの王女であり、ミノワスターの王太子カルロの婚約者であるセレナに仕える騎士はミケーレを筆頭に十人ほどいるが、ミノワスターに嫁ぐ日が近づき、セレナは慣れ親しんだ彼らとの別れに寂しさを感じている。
 城門をくぐりぬけ、日ごとに大きくなる寂しさを押しやるように馬のスピードを上げる。
 家族と簡単に会えなくなる未来を思えば不安でたまらないが、最後まで姉のように愛される事のなかった現実に、心は悲鳴を上げている。
 家族との別れより、自分を守り育ててくれたミケーレ、そして騎士たち。
 彼らだけでなく、離宮でセレナを育ててくれたアメリアとの別れの方が、何倍も苦しい。
 セレナを心から愛し、大切に想ってくれた人たちとの別れを思うたび、結婚なんてしたくないと大声で叫びたくなる。
 けれど、王女であるという自分の立場と責任を考えれば、結婚を拒む事は無理だとわかっている。
 馬を走らせながら、セレナは軽く首を横に振り、考えても仕方のない切なさにふたをした。

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