寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
「ア、アメリア、パン、まだある?」
セレナは目指していた食堂に勢いよく飛び込んだ。
少し遅れてミケーレと騎士たちも入って来るが、誰もが膝に両手をつき、荒い息を繰り返している。
離宮の侍女頭であるアメリアの息子のルチアーノが開いている食堂は、町の人々に人気で、いつも混み合っている。
普段ならルチアーノと彼の嫁のビビアンでどうにかまかなっているが、市のある日は客も増え、ふたりだけではどうにもならず、アメリアが手伝いに来るのだ。
アメリアが焼くパンはふっくら柔らかで、お年寄りにも小さな子供にも食べやすく市の目玉商品となっている。
セレナはそれを食べようと朝からわくわくしていたのだ。
まさか、ミケーレや騎士たちもそれを狙っているとは思わなかったが。
「セレナ様、まあまあ、走ってこられたんですか? 大勢の人でごった返す人混みを走るなんて、周りの人に迷惑だからおやめください。以前も言いましたよね」
「だ、だって、パンが……」
「パンならいつでも焼いて差し上げます。いつまでも子供のままでは困りますよ」
エプロン姿のアメリアは、カウンターからセレナのもとに来ると腕を組み、セレナやミケーレたちを厳しい目で睨んだ。
「ミケーレ様もですよ。そろそろ結婚も近いかという大人が、セレナ様をあおってどうするんですか」
「い、いや、俺もパンが食べたくて」
慌てるミケーレをアメリアはさらに鋭い目で睨み、黙らせた。
「ひゃあ、こわい」
セレナは思わずそう呟き、後ずさった。