寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
セレナがもがきながら背後のミケーレを見ても、セレナの慌てる様子を面白がっているように笑っているだけだ。
護衛のくせに、それでいいの?
続いてカウンターの向こう側のアメリアも見ても、子供のいたずらを見ているように苦笑し、温めたスープをお皿に移している。
「ど、どうしてよ。私のこと、見えてるの? た、助けなさいよ」
セレナの声は届いているはずなのに、誰も彼女を助けようとはしない。
「いい加減、離しなさい」
自分でなんとかするしかないと諦めたセレナは、自分の体を男性に力いっぱいぶつけた。
椅子から転げ落ちそうになるのをぐっとこらえながら、二度三度、頭突きも交えながらぶつかれば。
「いてっ。お前、いい加減にしろよ」
隣の男性は、セレナの攻撃を押さえつけるように彼女を羽交い絞めにすると、自分の胸に抱え込んだ。
「や、やだ、離しなさい。私はセレナ、王女のセレナよ。今すぐ離しなさい」
男性の胸でもがきながら、セレナはその背中をポコポコ叩いた。
全身を使い、必死で逃げようとする姿に、男性の目が優しく細められた。
店内の客たちも、セレナの姿があまりにもかわいくて、どの顔も笑っている。
一国の王女が見知らぬ男性に無理矢理抱きしめられているというのに、誰も助けようとしない。
明るく情に厚く、いつも国民のことを考えているセレナはランナケルドのアイドルとでもいうべき存在だ。
そんなセレナが慌てるこの状況を見ても、誰ひとりとして動こうとしない。
セレナがもがき続けていると、頭上から笑いをこらえた低い声が響いた。