寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
「相変わらず、じっとしていないよな」
「……じっと……?」
「王女という呼び名が似合わない王女だよな」
セレナは押さえつけられた相手の胸が細かく震えていることに気づいた。
笑いをこらえているような、そんな震え方だ。
「見た目は成長したのに、パンが食べたくて駆け込んでくるなんて、中身はまだまだ子供だな」
「え、子供?」
セレナをからかうような声。
いつも彼女を子供扱いする明るい口調に、セレナはハッと目を見開いた。
「まあ、俺があの川で抱き上げた時よりキレイになったけどな」
それまで暴れていたセレナの体から、ふっと力が抜けていく。
背中を叩いていた手も、動きを止めた。
「もしかして……?」
胸をドキドキさせ、もぞもぞと顔を上げれば、目の前には予想通りテオ王子の顔があった。
セレナの顔を覗き込み、にっこりと笑っている。
「久しぶりだな、セレナ姫。元気だったか? いや、聞かなくても元気だってわかるから答えなくてもいいぞ」
「ん……元気だけど。あれ? どうしてここに?」
テオも今日の市にやってきたのだろうか。
いずれクラリーチェの夫となるテオは、彼女と婚約して以来、たびたびランナケルドを訪れ、国のあちこちを見て回っている。
農家の手伝いをして汗を流したり、学校に出向いては子供たちに勉強を教えたり。
ある時は年に一度開かれる川泳ぎの速さを競う大会に出場して好成績も残している。
未来の王配として、国民とのつながりを強くしようと考えているのだろう。