寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない

 身分に関係なく、誰とでも屈託なく話し、国民の近くで笑っているテオは、ランナケルドで知らない人はいないほどだ。
 本来なら婚約者であるクラリーチェがテオと共に過ごすのだろうが、体調が優れない時が多く、そのたびセレナが呼ばれ、テオの相手をしている。
 時々カルロも一緒にやってくるが、ミノワスターの国王の使者という役も負っているため、ランナケルドの王であるジェラルドと執務室にこもることが多い。
 テオもセレナと連れ立って出歩くのを楽しみにしているのか、クラリーチェへの挨拶を早々に済ませ、城下で羽を伸ばしている。
 婚約が発表されて以来続くこの関係は、セレナが成長するにつれて回数も増え、今では月に一度のペースでテオはランナケルドを訪ねている。

「この間の切り傷は治ったのか?」

 テオの声に、セレナは視線を上げた。

「傷? ああ、これのこと?」

 セレナは無造作に束ねている長い髪を片側に寄せ、細いうなじをテオに見せた。

「ローズはほとんど痕は残ってないって言ってるんだけど、自分じゃ見えないの。どう?」

 体をひねり、テオが見えやすいようにうなじを近づける仕草に、店のあちこちから「あちゃー」という囁きが広がるが、セレナ本人は気にしていない。
 ミケーレは、束の間苦しげな表情を見せたが、すぐにそれを消した。
 それでも、セレナを見つめる瞳は暗く翳っている。
 そしてアメリアは、ため息をつきながら焼きたてのパンをお皿に盛っている。
 無防備にうなじをテオにさらすセレナは、大人になりつつある微かな艶と無邪気な少女の名残を併せ持ち、その魅力から目が離せない。

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