寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
テオは自分の腕の中にいるセレナの姿を見ながら、口元を緩めた。
まだ十歳の頃の明るく優しい性格はそのまま残っているが、王女として、そしていずれはミノワスターの王妃になる覚悟を持ちながら過ごしてきた約十年、彼女は着実に成長した。
細いうなじからは、大人の色香がにじみ出ている。
テオは視線を天井に向け、気持ちを落ち着けるように瞬きを数回繰り返した。
ふと気づけば店の客たちは皆ふたりに注目している。
近くのテーブルの老夫婦は、セレナを孫を見るような目で見つめ、他のテーブルの客たちも似たような視線をふたりに向けている。
誰もがセレナが大好きなのだ。
そのことに改めて気づかされたテオは、セレナを抱いている手に力を込め、周囲を安心させるように頷いた。
そして、セレナのうなじに視線を戻すと、まだ少し赤い傷痕を指でそっと撫でた。
「たしかに治ってきてるけど……あと一息だな」
「そう? もう痛みもないし、聞かれるまで忘れていたくらいなのに」
テオの指先の動きに反応しながら、セレナは小さく呟いた。
二週間ほど前にもテオがクラリーチェを訪ねてきたが、この日もやはり彼女の体調が悪く、セレナが代わりに相手をしていた。
ふたりの共通の趣味である馬術の練習をしていた時、テオのキレイな馬上の姿に見とれていたセレナは落馬し、肩から腕を打撲してしまった。
その時、うなじに5センチほどの切り傷を負い、少しの出血があった。
慌てて駆け寄るテオをはじめ、一緒に練習をしていた騎士や貴族の令嬢たちはその血を見て驚いていたが、セレナ本人は傷が見えないせいか落ち着いていた。
ただ、地面に強く打ちつけた左腕はかなり痛くて、唇をかみしめ泣くのを我慢した。
「白い痕が残るかもしれないな」
テオはセレナの首筋全部が赤く染まっていくのを見て、満足げに笑った。
「そ、そう?」
テオに体を預けたままのセレナは恥ずかしくてたまらない。
けれど、今はうなじを動くテオの熱が気になり、他のことは考えられない。
セレナが両手で押し戻せばいいのだが、できずにいる。
というより、したくない、と言ったほうが正確かもしれない。