寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない


 クラリーチェが十歳にもならない子供の頃、なかなか下がらない熱で意識が朦朧としている彼女が、うなされるように呟いた言葉を、セレナは今も覚えている。
 昼間、離宮の近くにある花畑で摘んだ花をクラリーチェに持って帰ってきたのだが、母である王妃に病人に花はよくないと怒られ、花は侍女によって捨てられた。
 クラリーチェが喜ぶと思って持ち帰ったのにと、セレナは大きなショックを受けた。
 おまけに、看病の邪魔になると言って、クラリーチェの部屋からすぐに追い出されてしまった。
 部屋から出される直前、セレナはベッドの傍に駆け寄り、クラリーチェの手をぎゅっと握った。

『早くお熱が下がりますように。お姉様が苦しくなくなりますように』

 目を閉じ、祈るようにそう言って、クラリーチェの回復を祈った時に聞こえてきた言葉。
 それが「セレナのほうが、女王にふさわしいのに」だった。
 クラリーチェは、セレナが女王になるべきだと思っている。
 うわごとだとはいえそれがクラリーチェの本心だと知り、セレナは幼いながらも大きな衝撃を受けた。
 慌てて駆け寄った侍女によって、クラリーチェから引き離され部屋から追い出されたが、セレナはクラリーチェのうわごとが耳から離れなかった。
 周囲の声同様、クラリーチェがいずれ女王になると信じていたが、彼女がそれを重荷に感じているのなら、代わってあげなければならない。
 簡単にできることではないと、大人になった今ならわかるが、当時のセレナはそれ以外考えられなかった。
 大好きなクラリーチェのために、自分が女王になり、クラリーチェにはゆっくり休んでもらおう。
 単純な思考回路は今も昔も変わらず、セレナはその翌日には日の出とともに起きだし、騎士の練習場に飛び込んだ。

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