寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない


『強くなりたいの』

 寝起きで髪の毛があちこち跳ね、自分ひとりで着替えられる簡単なワンピースを身に着けたセレナ姫。
 早朝練習を始めようとしていた騎士たちは驚いたが、どう説得しても帰ろうとしないセレナに降参し、その日一日だけだと言って、腕立て伏せとランニングの練習にだけ参加を許した。
 もちろん、その結果は散々なもので、セレナには涙あふれる苦い思い出となった。
 子供の気まぐれですぐに飽きるだろうと思われていたが、その翌日もセレナは誰よりも早く練習場に顔を出し、その日以来今日まで、彼女は多くの日を騎士団との練習に費やしている。
 もちろん、女性としての限界はあり、王女である立場ゆえに騎士としての本来の仕事に就くことはないが、自分の身を守れる程度には力をつけた。
 そして今では、彼女の誕生日のプレゼントは彼女に見合った槍や、どこまでも早く走れる早馬など、まるで王子へのプレゼントかと思うようなものばかりだ。
 そうやって自分を鍛えてきたのは、クラリーチェの代わりにランナケルドの女王になるためだった。
 もちろん、その目的が果たされることはなく、近いうちにクラリーチェが女王となり、テオと結婚することが決まっている。
 国の存亡が関わることでもない限り、それが覆ることはないだろう。
 ふと後ろにいるテオを見れば、クラリーチェとカルロがじゃれているのを苦笑しながら見ている。
 その表情からは、テオがクラリーチェをどう思っているのか、セレナにはわからない。
 けれど、これまでのテオを振り返れば、クラリーチェを大切に想っていることは明らかで、クラリーチェと結婚し、ランナケルドの王配となることも覚悟しているはずだ。
 その時のために何度もランナケルドを訪れ、国民とも親しくつきあっているのだろう。

「お姉様、はしゃぎすぎて疲れないでね」

 セレナはすっきりしない想いを胸の内にしまいこみ、クラリーチェとカルロに声をかけた。

「じゃ、私は部屋に戻ります」

 クラリーチェたちに順に頭を下げ、セレナは部屋を出た。
 それまで浮かべていた笑顔を消し、ぎゅっと唇をかみしめる。
 セレナがクラリーチェの部屋で過ごしたのはほんのわずかな時間だったが、彼女の心は大きく乱れていた。

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