寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
「どうしたの? そんなに大きな声を上げるリリーって、初めて見たわよ」
「そ、そうですか? クラリーチェ様とふたりきりの時にはいつも、こんな感じで大声で話して……ははっ。た、たしかに今の声は大きかったですよね」
リリーは強張った表情を隠すように、乾いた笑い声を上げた。
今年十八歳になったリリーは、年齢以上にしっかりしている。
ランナケルドの北端の領地を管理する伯爵家の次女で、城で働き始めて二年が経つ。
クラリーチェには他にも侍女が何人かついているが、年齢が近く気が合うのか、日常生活のほとんどの世話を、リリーが行っている。
「あ、あのセレナ様、ここでちょっと待っていただけますか? クラリーチェ様の様子を見てまいります……」
普段の落ち着いた物腰と違う上ずったリリーの声に、セレナはクラリーチェの体調がかなり悪いのではないかと感じた。
「お姉様は大丈夫なの? もしかして、また熱が高いの? だったら早くいかなきゃ」
セレナはリリーをおしのけ、クラリーチェのもとへ急いだ。
その背中を追うようにリリーも続くが、リリーは再び「セ、セレナ様、お待ちください」と大きな声を上げている。
その声はまるでクラリーチェにセレナのことを伝えているようで不自然だが、セレナはクラリーチェのことが気がかりで、気づかない。
「お姉様、大丈夫?」
セレナはクラリーチェが寝ているベッドに駆けよった。
「……え、お、お姉様……?」
そこにクラリーチェの姿はなかった。
乱れたシーツを見れば、誰かがここで休んでいたとわかるが、広いベッドは空っぽだった。
「どこに行ったの?」
セレナは振り返り、強張った表情で立っているリリーに問いかけた。