姫様と魔法のキス
「アロガン王子が今回の結婚で婿養子になることで、アジーン王国を乗っ取りドヴァー国の支配下に入れ、ドヴァー国の大きな強化を図っています。
これはエンガン王子も含めたドヴァー国全体の政略で、ニカとの結婚もそのためです。国さえ手に入れば王様とニカを城に幽閉しておくつもりです。
そして、この強国作りを進めた暁には他の国を武力で侵略し治め、5強国の王となるつもりなのです。
また、戦争を起こすにおいて傷つく兵や王子たちの回復方法としてニカの回復魔法の力を使い続けることを考えています。
実際にニカに回復魔法が備わっているのかをアロガン本人が確かめていたので、このままでは本当にニカは魔法が枯渇するまで永遠と幽閉されたまま魔法を武力侵略のために使い続けることになってしまいます。それだけはなんとか阻止したいのです」
「どうかニカの結婚を考え直してください」
深々と頭を下げるレゼの姿に、父王は目頭を押さえる。
本来であればいきなり出てきた第三者の言葉など信じるに値しないが、目の前の青年はニカが城に連れてくるほど信頼している友人であり、仮にこの話が本当ならば世界を揺るがす大事だからだ。
どちらを信じるか、この婚約パーティーが終わるまでには確実に決めなければならなかった。
「…なぜそのことを知った?」
本当にレゼがニカの友人で、城に来るのも初めてなのであれば、当然アロガンと接触するのも今日が初めてなはずで、知る由がない。
若しくは彼がドヴァー国のスパイであり、ニカと近づく上で心変わりしたということも考えられなくもないが、そう簡単に心変わりする者を送るわけはなく、ましてやそのような重大機密を漏れる可能性のあるスパイに伝えるはずがないのだ。
見定めるように下から上へと父王はレゼを見る。
そしてレゼの顔を見た時、ふとその黒髪が目に入った。
「その髪の色は…」
父王はじっとレゼの顔を見る。あまり見かけない珍しい黒髪。
ルビーのように明るく輝く赤い目。
何か引っ掛かりを感じその容貌を見つめていた父王は、思い出したかのようにハッと目を見開いた。
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