姫様と魔法のキス
「こんなめでたい日にまで政務があるとは、大変ですね」
「まったくです」
父王が会場に入り席に着けば、既に席に着いていた第一王子であるエンガンから声をかけられる。
ニコニコと笑みを浮かべているエンガンからはアジーン王国を侵略しようとしている様子など全く読み取れず、恐ろしく感じながらも父王は口を開いた。
「実はですね、貴殿の弟君であるアロガン様が私の娘と結婚するにあたり、娘の魔法を使って世界侵略を企んでいるとの噂が流れているのですよ」
「なんと…!決してそのようなことは…」
父王からの言葉に、エンガンは驚く素ぶりを見せ、眉間に皺を寄せる。
「私もないとは思いたいのですが、エンガン様がそのような気がなくとも、アロガン様がどう思っているのかは皆目見当もつきません。
しかしこの疑念が残ったまま結婚に至るのは1人の娘の父親として、認めたくないのです」
婚約の儀を始めるために席に着いているニカとアロガンを眺めながら、父王はエンガンに伝える。
対してエンガンは父王が急にそのようなことを言ってくるとは思わず、誰がこの機密を漏らすようなことをしたのかと考えを巡らせていた。
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