東の空の金星
「あの、私はパン職人なんですけど…」

「蕎麦や、コーヒーは嫌い?」

「きっ、嫌いじゃないですけど
私はパン職人なんで…ちょっと無理かと…」と少し、強めに言ってみる。

「私ね、さっきお客さんが入ってきた時、仲良くなれそうだなって思ったの。
将太(しょうた)さん、ここでパン焼いてもらったら…どうかな」
と使われていないキッチンを見ながら、
私とマスターのやりとりを聞いていた奥さんが横から口を出す。

「…ここでか。あー、うん、そうか。
…先輩に聞いてみるか。
もう、4年もこのままだしな…
…でも…説得できるかな」と首を振りながら腕組みし、

「ねえ、お客さん、
ここでパンを焼けたらこの店で働いてくれる?」

とマスターは真面目な顔で私を見る。

…マジですか?

「…コーヒーを飲みながら考えても良いですか?」

とりあえず、そう言って、
にこにことスカウトしてくるマスターと奥さん
ふたりを遠ざけた。
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