伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
デイモンは屋敷を出てから、若さを保つ化粧品や効き目の良い薬を扱う商人としてひとり立ちし、今では一躍有名になっている。その背景には、いつまでも若々しい彼の奥方の社交による功績があるともっぱらの噂だ。
チェスターは同じ使用人仲間のエフィーと結婚し、エルマーと同い年の、ジーナという娘をもうけた。
この娘が先祖返りなのか魔力が強く、エフィーは魔法の制御を覚えさせるのに苦労しているのだ。
やがて玄関の扉が開く音がした。
「はいはい、森ね。ちゃんと覚えているわよ」
二人の子供と手をつないでやってくるのは、赤毛の奥方だ。数歩遅れて、当主であるオーガストがのんびりと笑顔を浮かべたままついてくる。
「ご家族でお散歩ですか?」
チェスターが笑いかけると、ドロシアが一瞬だけ寂しそうに笑った。
「今日はお墓参りよ。彼の」
「……ああ。そうか、今日が命日でしたね」
長きにわたってオーガストを支えた黒猫のアールは、三年前に息を引き取った。
彼がずっと守り続けた森の墓場は、今は白猫のアンと子供たちが、毎日のように賑やかな声を響かせている。
「私、終わったらアンと遊ぶ」
「そうね、アンも喜ぶわ」
白猫と仲の良い母にお墨付きをもらって、アリシアは一気に顔を晴れ渡らせた。
「行こう、エルマー。森まで競争!」
「や、待って! ねえさま」
駆け出すアリシアの後を、おぼつかない足取りで追いかけるエルマー。
無邪気な子供たちを見送りながら、ドロシアとオーガストは顔を合わせ、愛情あふれた笑顔をみせる。
辺境の伯爵家は、今も、のんびりとした時を刻んでいた。
【Fin. 】


