伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「お金のことじゃないんです。この日のために、みんながしてくれた思いが無駄になっちゃうのが嫌なんです」
マギーがサイズ直しをしてくれたたくさんのドレス。
使用人の少ないメルヴィル男爵家では毎日仕事がたくさんある。とても日中には時間が取れず、マギーは夜にコツコツ頑張ってくれた。
動き回る仕事と違い、針仕事は話しながらでもできる。
ドロシアも隣に座って手伝いながら、マギーとたくさん話をした。
マギーから聞かされる、もう覚えていないくらい小さな頃の母との思い出が特に印象的だった。
小さなドロシアはシロツメクサの花冠を作るのが好きで、それを作っては、みんなにかぶせて回ったのだそうだ。
『ママ、お嫁さんみたいよ?』
色素の薄い母の金髪に白い冠はよく似合い、幼いドロシアは喜んだのだという。
母は、お返しにと同じように花冠を作り、恭しくドロシアに被せたらしい。
『私の大切なあなたがお嫁に行くとき、絶対に幸せになりますように』
お姫様になった気分で喜ぶドロシアに、『僕にはないの』と拗ねるヒース。
母子の団らんは微笑ましく、マギーは『なぜかずっと忘れられない思い出です』と語った。
(そうだわ。私は幸せにならなきゃ。ママがそう願ってくれたんだから。それに、母親代わりのマギーが同じように願って送り出してくれたんだもの)
思い出したら勇気が湧いてきた。
まだ出会ったばかりで、彼のことをよく知りもしないけれど、このまま終わりにはしたくない。
ドロシアの決意を感じ取ったのか、ノーベリー伯爵は真顔になった。