伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
4.あなたの妻になります


腕が重いな、と夢の途中でドロシアは思った。

今日の夢は、茶色の猫の夢だった。とび色の瞳でドロシアを見つめ、飛びついてくる。覚えていてくれたのかとうれしくなって、ぎゅっと抱き締めた。
その猫はどんどん大きくなっていって、ドロシアはその重さに耐えきれなくなって、顔を歪ませた……。


「……え?」


朝日がカーテンの隙間から差し込んでいる。横向きに寝ていたドロシアの目に飛び込んでいたのは、いかにも男性のものであろうしっかりした骨格の肌色の背中だ。しかも、ドロシアは自分からその背中に抱き着いている。
下になった右腕がしびれていて、ああさっきの夢はこのせいか、と納得しそうになって我に返った。


「やっ、だっ、だれっつ」


飛びのこうとしても、男の重さで右腕が抜けない。
だが、ドロシアの悲鳴で男のほうも目が覚めたらしい。くるりと振り向くと、「うわぁっ」と悲鳴をあげた。
驚くことにそこにいたのは、オーガストだ。


「お、オーガスト様。どうしてっ。ていうか、きゃあああ」


ドロシアはちゃんと夜着を着込んでいる。しかしオーガストは完全に裸なのだ。飛びのいた彼の上半身があらわになって、ドロシアは手で目を覆った。


「……ん、あ、うわあああ! しまった、寝てしまった」

「や、よ、夜這いですかっ」

「違う、ドロシア。心配しないで、僕は別に君に手を出しては……」

「そんなことはいいから服を着てくださいー!」

「あ、服ね。……服。ああそれが、今はなくてね」

「じゃあどうやって入って来たんですか。最初っから裸で屋敷を歩いていたんですかー!」


ドロシアは恥ずかしすぎて、両手で顔を押さえて半泣きになった。

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