伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
猫は行儀よく枕元に座り込み、尻尾で彼女の頬をくすぐった。
(く、くすぐったい)
「ん、……ん」
意識はこんなにはっきりしているのに、腕ひとつ動かせない。ドロシアはだんだん怖くなってきた。
(なんで体が動かないの? 怖いよー。助けてー、誰か。助けて……)
内心とは裏腹に、寝ているドロシアの表情は変わらない。猫は満足そうにその顔を見つめると、立ち去ろうと腰を上げた時だ。
「……て、……オーガスト様」
ようやく少しだけ口が動いて、言葉になって表に出た。
猫はドロシアの寝言に動きを止め、赤みがかったとび色の瞳でじっと見つめる。そして、顔を近づけ、ぺろりと彼女の頬を舐めた。
(あ、なんか体が楽になった……?)
猫に舐められた途端、体を抑え込んでいた何かが消えてなくなったかのように寝返りがうてた。しかし代わりにズシリと体に疲労がかかってきた。
(や、なにこれっ)
ドロシアは思わず枕を掴む要領で猫を抱きしめ、ベッドに引きずり込んだ。
「みゃー、みゃー」
猫は悲鳴を上げたが、ドロシアは離さなかった。抱き締めた瞬間、小さな頃と同じ感覚がした。温かくて安心できる柔らかな体温。
「お願い。一緒にいて」
「みゃー」
「ひとりは、……寂しいの」
ドロシアの瞳に涙が浮かんでいるのを見て、猫はおとなしくなって目尻の涙を舐めすくった。
「ふ、くすぐった……」
全身の疲労感は、ドロシアを再び眠りの沼へと引きずり込んだ。
猫は彼女の腕の力が緩んでからも、その寝顔を見つめていた。