華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
あの人か……彼なら大丈夫かな。用件だけでも聞いておこうか。

出ることに決めた私は、少し扉を開けて顔だけ覗かせる。身長百七十センチくらいで中肉中背の彼は、私に笑みを向けて会釈した。


「こんばんは。あの、どちら様でしょうか」

「ビフロンス・ラシュテと申します。セイディーレ閣下はいらっしゃいますか?」


ラシュテさんはセイディーレに用があるらしい。もうそろそろ帰ってくるとは思うけれど……。


「すみません、外出中なんです。ご用件は……」

「あー、たいした用ではないんです。これを差し上げようと思いまして」


そう言いながら、彼が腰につけていた袋から取り出したのは、飲み物が入っているらしき小さな茶色の瓶だった。


「これは?」

「うちの畑で採れた野菜で作ったジュースです。たまに使用人の子に会うとあげているんですが、好評なんですよ」

「そうなんですか!」


アンジェからそんな話はひとことも出なかったため少し驚いていると、にこにこしているラシュテさんは、私に瓶を差し出してくる。


「あなたも、今味見してみませんか」


え、今ここで飲めと? 庶民からすると、こういうのは当たり前のことなのかしら。

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