華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
なんとも複雑な心境になる私に、閣下は「野宿して襲われるよりマシだろう」としれっと言う。

ま、まぁ確かにそうね。緊急事態だもの、わがままなんて言っていられないわ!

それになにより、すぐに薬を調合してもらえるかもしれないのだから、行かない手はない。

「お願いします」と言って軽く頭を下げると、閣下はさっそく街とは反対方向の山のほうへと馬を向ける。私もすぐにメーラを走らせ、彼の隣に並んで声をかける。


「あの、閣下は大丈夫なんですか? まだお仕事があるんじゃ……」

「今日はこのまま帰るつもりだったから平気だ」


前を向いたまま、なんてことない調子で答える彼だけれど、こんなことまで付き合わせてしまって申し訳なく思う。

やっぱりこの人、根は優しいんじゃないかな。心底冷酷な人だったら、私のことなんてきっとあのまま放っておくわよね。

そんなふうに思うと心がほっこりして、私は口元を緩ませてお礼を言う。


「本当にありがとうございます! このお礼は必ずしますから」

「礼などいらない。その代わり、早く用を済ませて自分の国へ帰れ」


あっさり、ズバッと返され、上がっていた口角がヒクッと引きつった。

……優しいって思ったこと、撤回しようかしら。


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