華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
そのときの記憶はぽっかり抜け落ちていて、本当のところなにがあったのかまったく覚えていないのだけど、私は悪魔というものに漠然とした恐怖を抱くようになった。

城の外へ出させてもらえなくなったのは、これが原因。

それ以来、悪魔に襲われた人がいるという話は聞かなかったし、姉様も外に出ているのだから大丈夫じゃないかと、もう恐怖心はなくなっていたのだけれど……今、また悪魔という言葉を聞くことになるとは。

しかも、セイディーレが悪魔の血を受け継いでいる──?


「マジーさん、今の話……」


“本当ですか?”と聞こうとしたとき、ドアが開く音がして口をつぐんだ。振り返れば、涼しげな顔のセイディーレがいる。


「酔いつぶれたか」


テーブルに突っ伏すマジーさんを見下ろす彼につられて私もよく見ると、すでにぐーぐーと寝息を立てている。

……ほんとだ、私が考え事している間に寝ちゃってた。

気持ちよさそうな寝顔を見てクスッと笑いつつ、ベッドのそばに落ちていた上着を背中にかけてあげた。

セイディーレは、棚の上に置いていた手袋を取りながら言う。

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