ここにはいられない


一日にトイレに行く回数には個人差があるだろうけど、少なくとも朝と夜1回ずつは借りることになる。
1回1回はわずかな時間だとしても、自分の生活圏内に突然他人が入ってくるのは、とてもストレスを感じることだと思う。
一月とは短いようで、他人と過ごすにはとても長い。

無茶苦茶なことを言っている自覚は、消え入りたいほどにあった。

ところが、

「どうぞ」

さっき「トイレを貸してください」とお願いした時同様、彼は何でもないことのように簡単に了承した。

1度のことではない。
これから一月、ずっとなのに。

「へ?いいんですか?」

断りにくいから了承した、というわけでもなさそう。
私の方が心の準備ができておらず、間抜けな確認をしてしまった。

「俺が断ったら他にあてはあるんですか?」

トイレを貸してくれるだけならあてはある。
けれどそれが毎日何度も、となるとあてなんてない。

友人は家庭を持っているか実家住まいで、一月泊めて欲しいとはお願いできない。
県外に住む両親の家から通勤することは不可能。

「・・・ホテル住まい、とか、ですね」

一月滞在するとなると、安いところを利用してもそれなりにかかる。
それこそ、トイレの修理費用に近いくらい。

「あとは・・・オムツ・・・」

もしこの2択だったら、色んなものを秤にかけた上でホテル暮らしを選ぶだろう。
精神的負担も一番少ないのがホテルだ。

そうだ、やっぱりホテル暮らしにしよう。
「オムツ」という選択肢を持ち出したことにより、私の中でホテル暮らしが現実的に思えてきた。

同じ職場の人とは言え(いや、そうだからこそ)他人の家で頻繁にトイレを借りるよりずっと気が楽だ。
新しいアパートへの引っ越し費用、敷金礼金も考えると出費はかなりかさむけど、貯金もあるから払えないわけじゃない。
一生に一度の贅沢と思えば。

解決策が見えて明るくなった表情を彼に向けると興味なさそうにパソコンに戻っていた。

「俺は別に構いませんので、お好きなように」

「すみません!トイレ借ります!」


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