ここにはいられない
膀胱炎の厄介なところは本当に尿意が頻繁だというところで、悪化してくると10分経たずにトイレに駆け込むことになる。
トイレトラブルに悩まされていたから、水分補給できていなかった。
たくさん水分を取ってマメに排出する。
これを怠るとどんどん悪化していく。
話の途中でトイレに入ってしまったので、「すみません。さっきの話ですが・・・」と声を掛けながら引き戸を開けると、すでに彼はいなかった。
さっきまで彼がいたはずのローテーブルには紙切れが1枚。
『出掛けてきます。鍵は開けたままでいいです。トイレもご自由にどうぞ』
不用心だなー、と思った。
私が何か盗んだりすると思わないのだろうか。
家主がいなくなった部屋はグッと自由だった。
そうなるとホテルに行く決心はゆるゆるとほどけ、「今日一日くらいはこちらでお世話になろう」という気持ちになる。
一度部屋に戻った私はたっぷりお茶を入れたポットと本を持って、彼の部屋で不自由のない時間を楽しんだ。
おかげで数時間後にはだいぶ菌が排出されたのか、痛みも尿意も少なくなっていた。
同時に、他人の部屋でありながら一人気楽に過ごす時間を持ってしまった私はとうとうホテル暮らしを言い出すことができなくなり、彼の部屋へと通う生活をすることになったのだった。