ここにはいられない
私自身もっと軽い気持ちでお願いしたのだけど、トイレを借りるということは予想以上に生活を左右されることだった。
半日トイレを借りて大分落ち着いた私は自分の部屋に戻ったのだけど、「あ、トイレに行きたい」と思うと彼の部屋に行くことになる。
お風呂に入る前に行っておきたくて一度お邪魔し、それで最後だと思っていたのに夜中のことを考えると寝る直前にも行っておきたくなる。
すでにすっぴんでパジャマ姿だったから、メイクはしないまでも一応Tシャツとパンツに着替えて部屋を出た。
彼はあの後ずっといなかったのに、寝る時間ともなれは当然帰っているらしく灯りがついている。
すでに我が物顔で出入りしていたとはいえ他人の部屋なので、迷った末にチャイムを押した。
するとまもなく内側からドアが開いて、彼が無表情で少しだけ首を傾げた。
「こんばんは。すみません。トイレを借りてもいいですか?」
自分の身なりがとても他人に見せられるものじゃないことは自覚しているので、もじもじと下を見ながら言った。
「どうぞ」
私のことなんて見る様子もなくさっさとリビングに戻っていく。
その彼の後について部屋に入り、真っ直ぐトイレに向かった。