ここにはいられない

「おい!」

すでに怒りを含んだ声が飛んできて、これから予想されることに気持ちが落ち込んだ。
当然そんなことはおくびにも出さず、笑顔で振り返る。

「はい。どうされました?」

「わざわざこんな朝早くから朝飯も抜いて来たっていうのに、検診受けられねーってどういうことだよ!」

このタイプのクレームは毎回必ずある。
事前の通知でもちゃんと説明はしているのだけど、それだけでは浸透し切らないのだ。

必ずあることだけど怒りの大小はあって、これは小ではなさそう・・・。

「持病をお持ちなんですね?それでは主治医の先生に判断を仰がないと。申し訳ありません」

深く頭を下げても相手の怒りは収まらない。

「そんなこと一言も言ってなかったじゃねーか!」

送付された注意事項に大きく書いているので証明することはできるけど、それを言ったら火に油を注ぐことになりそうだし。

「検診はあくまで健康状態を保つために行うものであって、リスクを犯すものではないので」

などと正論を言っても、焼け石に対して水ほどの効果もない。

「いいからさっさとやれよ!やらないならお前の名前を出して市役所に抗議文を送りつけるぞ!」

いつもなら豊かな朝を楽しんでいる時間なのに、今日はなんて悲惨なんだろう。

身体に負担がかかることだから「じゃあ、いいですよ」と言うわけにもいかないし、謝っても謝っても効果は感じないし、本当にどうしよう・・・。


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