ここにはいられない



昨日作ったミートソースととろけるチーズだけで作ったピザトーストは、おいしいけれど食べるたびにミートソースがボタボタ落ちる。
「残っても困るから」と無理矢理乗せたのがよくなかった。

「ごめん。食べにくいね」

千隼は小さく首を横に振り、落ちたミートソースをティースプーンですくって全部食べてくれた。

「ごちそうさまでした」

「こちらこそ、全部消化してくれてありがとう」

食材も余ったものは千隼が引き受けてくれることになっていて、それもとても助かった。

「今夜は仕事遅くなる?」

「どっちでも。早く帰った方がよければ早く帰ってくる」

それって私に合わせて仕事を切り上げてくれるっていうことでしょう?
そう言われると負担をかけるようで困る。

「あのね、一ヶ月お世話になったからご飯でもごちそうしたいんだけど、どうかな?何か食べたいものはない?」

もう最後なのだから迷惑を省みず提案することにした。

千隼は特に好き嫌いはないというので、いつも私が勝手にメニューを決めてきた。
全部残さず食べてくれたのは嬉しかったものの、結局感想は一言ももらえなかったので、好きな食べ物すらわからないままだった。

だから最後くらい思い切り好きなものをごちそうしてあげたいと思う。

「焼き肉でもお寿司でもフレンチのコースでも、どーんと奢るよ!一月ホテル暮らしするかトイレを全面改装するよりは数段安いんだから」

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