ここにはいられない
じっと私を見て考えている千隼の様子から、断られるかなって思った。
「必要ない」って言われてもここは食い下がるつもりで私も臨戦態勢を整える。
「カレー」
思いの外素直に答えてくれたので、勢い余って前のめりになるところだった。
「カレー?そんな安いのでいいの?」
焼き肉店もお寿司やさんもホテルフレンチもあるけど、カレー専門店はない。
洋食屋さんだって、役所の周りにある定食処のようなものばかりだ。
あ、ホテルになら○○和牛カレーとかありそうだな。
「カレーがいい。最初に作ってくれたやつ」
「え?私が作るの?」
「何でもいいって言ったよ」
「言ったけど」
まさか作ることを要求されるとは思ってなかった。
嫌ではないけど、最後の最後にカレーって、なんとなく締まらない。
少し驚いているうちに千隼が立ち上がって自分と私のお皿を洗い始めたので、この話はこれで決まってしまった。
まあカレーなら翌朝も食べられるから、引っ越しの朝にはちょうどいいかもしれない。
だけど箱詰めしてしまったキッチン用品の中からクミンとローリエだけは取り出さないといけないなー、となんだかむずがゆい嬉しさとともに考えていた。