ここにはいられない


班長にも菊池さんにも改めて挨拶して庁舎出入り口に向かうと、数m先を背の高い人影が歩いていた。

「お疲れさまです」

小走りで近寄って声を掛けたら、千隼は一瞬視線を落として小さく頷いた。

「お疲れさま」

「こんなに早いの珍しいね」

「・・・週末だし」

週末だろうが土日だろうが仕事をしている千隼だ。
早めに帰って来てくれるとわかっていても、定時に上がるとは思わなかった。
ここで会えなかったら、千隼は自分の家の前で待ちぼうけするところだったのに。

「私はこれからお買い物して帰るから、先に帰ってて」

私の手から鍵を受け取った千隼は駐車場に向かった。



私の方はスーパーで必要な材料をカゴに入れて、しばらく悩む。

やっぱり最後だし、乾杯のお酒くらいあった方がいいかな?
じゃあ、まずはビールと・・・千隼の好きな銘柄なんて知らないな。
これでいいか。
あとは缶チューハイ?ワイン?日本酒はやり過ぎだよね。

思うままに入れていたら自転車のカゴに入り切らなくなるところだったので、6本入りのビールと缶チューハイを4本以外は棚に戻した。

それでもふらふらと重い自転車を漕ぎながら、「もうこの道を通ることもなくなるのかー」と感傷的な気分に浸っていた。




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