ここにはいられない
モヤモヤする気持ちをおろし金にぶつけて生姜をゴリゴリ摺りおろしていると、手元がふーっと暗くなった。
「カレーじゃないの?」
表情はないのに、本当に不思議そうな雰囲気は伝わってくる。
「カレーだよ。ほとんどの野菜は摺りおろして入れてるの。人参もセロリも、あとニンニクも」
いつもは全部まとめてフードプロセッサーにかけているけど、さすがに出すのが面倒だった。
ずっとおろし金を使い続けていたから腕が痛い。
「最初食べた時、肉しか入ってないんだと思った」
「むしろ定番のカレーより色々入ってると思う。一緒に作る?」
全然期待せず半ばジョークで言ったのに、千隼はコクンと頷いて私の手から生姜とおろし金を受け取った。
順調に野菜を摺りおろす千隼の横で、私が肉と玉ネギを切り、クミンを炒める。
「・・・何か変な匂いがする」
「ああ、クミン。臭いよねー。ちょっと不安になるけど、できあがるとおいしいんだよ」
狭いキッチンだから二人並ぶとほとんど触れ合っている状態になる。
気温が落ち着いてきた今だと、ほんのり感じる体温は心地いい。
一緒の部屋に住んでいてもこんなに近くにいたことは、思えばなかった。
「あとはこれぜーんぶ炒めて、水とコンソメとローリエ入れたらルー溶かすだけだよ」
「この葉っぱは?」
「これがローリエ。ハーブだよ。臭みが取れるんだって。私もよくわからないけど、とりあえず入れてる」
私が炒める間に千隼は洗い物をしてくれて、それが終わってもずっと隣でカレーができるのを見ていた。
「沸騰するまですることないよ?そこから更に10分くらいは煮込みたいし」
「うん」