ここにはいられない
いつもは夕食はバラバラで、何度か一緒に食べた時も晩酌しなかったから、食事が終わったらそれぞれ好きなことをしていた。
けれど今夜はお酒があるから、お互いなんとなくテーブルについたまま、見るともなしに野球中継を眺めたりしている。
千隼はおしゃべりな人じゃないけど、話しかければ必ず反応はしてくれる。
それが言葉で返ってくるとは限らないけど。
だから沈黙が窮屈だと思ったのは本当に最初だけだった。
今日は、重い。
どうしてなのか空気が重くて仕方ない。
何かもっと話さなきゃいけないことがあるような気がして、それでも言葉が出てこない。
そういう焦燥感のようなものに駆られて、お酒ばかりがすすむ。
千隼も目はテレビを見ているけれど、野球の内容を追っているようには見えない。
かと言って、何を考えているのかなんてわかるはずもなかった。
すっと立ち上がった千隼は、キッチンでたっぷりのほうじ茶を淹れて戻ってきた。
「もう、その辺で」
そう言って私の手からチューハイの缶を取り上げ、マグカップを押し付ける。
最近では本当に落ち着いていて、ちょっとくらいお酒を飲んでも大丈夫なんだけど、「ありがとう」と素直にいただいた。
お腹いっぱいで苦しいはずなのに、千隼のほうじ茶はすーっと身体に馴染んだ。
ホッとしたら急に瞼も身体も重くなる。
「お風呂に入らなくちゃなー」「最後の荷造りもしないとなー」と頭では思っているのに、身体はソファーに張り付いたように動けなくなっていた。