BAD & BAD【Ⅰ】
しかし、私の視線は、十蔵寺剛の顔にも門にも向けられていなかった。
「な、なんということだ……!」
「幸珀?どうしたの?」
「十蔵寺剛の服が……服が……」
「服?」
「和服じゃない!!」
「明らかに今どうでもいいよな、それ」
呆れる弘也なんか気にせずに、私は自分の世界に浸かる。
どうでもよくない。大事なことだ!
だって、家がこんなに豪華な和風建築なんだよ?
誰もが、家での服装は和服だって期待するじゃん!
それなのに、十蔵寺剛はゴリゴリの洋服!全身黒で揃えちゃって、バカじゃないの!?
ミスマッチすぎるよ。家の雰囲気に合わせろよ!
「お前にはプライドがないのか!!」
「はい1回黙ろうねぇ?」
「……ひゃい」
弘也が最上級に完璧に整った笑顔で、私の両頬を両手でぺちゃんこに押しつぶした。
本気で怒ってる。
目が笑ってないもん。