騎士団長は若奥様限定!?溺愛至上主義
『で、でも……これは土の上に落ちてた薔薇だし、汚れているから──』
『大丈夫。汚れてなんかない、綺麗だもの』
『……っ』
『私が、大切にする。いつか花が開くまで、楽しみに待つわ』
手折られたからといって、終わりではない。
花瓶に挿して毎日水を替え、少しずつ愛情を注げば、きっと綺麗に咲くはずだと幼いビアンカは信じていた。
『綺麗に咲いたら、この庭園に咲くどの花よりも気高く、逞しい一輪になる。ね、あなたも、そう思うでしょ?』
ビアンカがそう言って再びニッコリと微笑むと、美しい黒髪を靡かせた男の子──ルーカスは、とても幸せそうに微笑んだ。
『ありがとう。きっと綺麗に……咲いてみせる』
けれど、その時手渡された薔薇の花が無事に咲いたかどうか、十七になったビアンカは覚えていない。
そしてその後、今回の政略結婚の話がくるまで、ただの一度もルーカスと顔を合わせることもなかった。