騎士団長は若奥様限定!?溺愛至上主義
「……大丈夫。絶対に、下は向かない」
ドレスは汚れてホコリまみれ。髪だってグチャグチャだし、顔もきっと汚れているに違いないけれど。
──ルーカスが、この手を握っていてくれるなら。何が起ころうとも彼と二人で、前を向ける。
堂々と、彼の隣で。彼の妃として自分は、彼を信じて顔を上げよう。
「……失礼、いたします」
──ゆっくりと。その言葉を合図に目の前の扉が開かれた。
ビアンカの腰に手を回したルーカスは、彼女を守るように身体を引き寄せながら部屋の中へと歩を進める。
「国王陛下。遅れてしまい、申し訳ありません」
「ルーカス!? それに、ビアンカ王女……!?」
一番に目に飛び込んできたのは大理石で造られた、大きなダイニングテーブルだった。
そして、その上に並ぶ豪華な料理を囲うように座っている、近隣諸国の王たち。
頭上の大きなシャンデリア。金色に輝く燭台と、華々しい芸術品の数々。
けれどそのどれよりも美しいルーカスは、驚いた表情でこちらを見ている王太后を見つけてその目を細めた。
「……ルーカス、突然現れて何事だ」
口火を切ったのは王太后陛下、その人だった。
彼女の口から出た冷たい声に、ゲストたちが一斉に彼女へと目を向ける。
「大切な皆様をお招きした晩餐会前に、突然上着を脱ぎ捨てて出て行ったらしいわね……。その服装、まさか騎士団の仕事でもしていたのかしら? 第二王子という立場でありながら、随分と身勝手が過ぎること」
嘲笑混じり、吐き捨てるようにそれだけを言った王太后は、チラリと近隣諸国の王族たちへと同意を求めるように目をやった。
彼らは彼らで、突然のことに驚き困惑している様子だ。