騎士団長は若奥様限定!?溺愛至上主義
「はぁ……」
今日、何度目かもわからない溜め息が零れた。
溜め息を零すと幸せが逃げる……なんて以前アンナが言っていたが、もしそれが本当であれば、もうとっくに幸せは逃げてしまっているだろう。
「もう、寝よう……」
いつまでもテラスで星を眺めていても仕方がないと思ったビアンカは、肩にかけていたショールを掴んで踵を返した。
目の前には綺麗にベッドメイクのされた白いシーツ。
その上に飛び込んでしまえばもう、明日を迎えるしかない。
「……っ!?」
と、そのタイミングで突然、部屋の扉が小さく唸った。
反射的に身構え足を止めたビアンカが、その場に立ちすくむと騎士団の制服を身に纏ったルーカスが扉の向こうから現れた。
「ビアンカ?」
「ル、ルーカス……?」
ビアンカが呆然としながら尋ねると、ルーカスはテラスで立ち竦むビアンカを見つけて一瞬だけ驚いたように目を見開いたが……すぐにその目を細めて、彼女を愛おしむように微笑んだ。
「また、そんな格好でテラスに出ていたのか。風邪でも引いたらどうするんだ」
ビアンカは目の前の現実を受け止めきれずに返事ができない。
何故ならルーカスは今頃は、隣国にいるはずで……帰ってくるのも明日の昼過ぎだとばかり、思っていたのに。