騎士団長は若奥様限定!?溺愛至上主義
「まだ、夜は冷えるな」
言いながら、ルーカスが後ろ手で扉を閉める。
静まり返った部屋の中には、心臓の鼓動音だけが、トクトクと耳に届いて鼓膜を揺らした。
「ルーカス……確か、帰ってくるのは明日のはずじゃ……」
ようやくビアンカが口を開くと、ルーカスはそっと目を細める。
「ああ、その予定だったが……王宮を出た直後に、今日は花祭りだったことを思い出したんだ。もし、ビアンカが今日は花祭りであることを知ったら、参加したいと言い出すのではないかと思って帰って来た」
「え……」
「巡察を昼間の内に済ませ、夜になる前に向こうを出た。急いで馬を走らせたものの、結局こんな時間になってしまったが……」
よく見るとルーカスの手には、美しい一輪の薔薇が握られていた。
「今からならまだ、星夜の行事くらいは参加できるだろう。俺と一緒に、仮面をつけて街に出るか?」
それはまるで、幼い頃に庭園で見たあの薔薇のような──。
そういえばルーカスから花を贈られたのは過去、あの一度だけ。
幼い頃、庭園で会った少年ルーカスが薔薇をくれた、それきりだ。