騎士団長は若奥様限定!?溺愛至上主義
「ルーカス様が冷酷な人間であることは、大陸にいる王家の者なら誰でも知っている有名な話です」
「それなら、どうして私は、その有名な話を今の今まで知らなかったの……?」
「それは、ビアンカ様が噂話に興味がないからでしょう。噂話というのは基本的に、悪意を込めて囁かれるものです。それに興味がないというのは、世間知らずで自分のことに無頓着なビアンカ様の、大きな魅力の一つですよ」
「ハァ……」
褒められているのか、貶されているのか、ビアンカにはもう判断がつかなかった。
けれど間違いなく今された話は──先ほど、自分の夫となった男の話なのだ。
「それに、ルーカス様にはもう一つ、ある噂が……」
「え?」
「いえ……なんでもありません」
ぽつり、と。何かを言いかけたアンナは、小さく首を左右に振った。
その様子にビアンカは一瞬、首を傾げたけれど。すぐに姿勢を正したアンナを前に、それ以上、何かを聞くことはできなかった。
「以上が、私の知るルーカス様の正体です」
キッパリと言い切って、アンナは真っ直ぐにビアンカを見つめた。
確かに、今の話を予め聞かされていたら、ビアンカはこの結婚に乗り気にはなれなかっただろう。
だからこそアンナも父も、ビアンカには真実を告げずにいたのだ。
黒翼の騎士団長。誰もが認める冷酷な男と温かい家庭を築こうだなんて、それこそ乙女の夢どころか、夢のまた夢に違いない。