騎士団長は若奥様限定!?溺愛至上主義
「──ビアンカ様。今日はルーカス様の命令で、城内を案内してくださる方がいらっしゃるとのことです。それまでに準備をしなければなりませんので、何卒よろしくお願いいたします」
扉の向こうから、アンナのあっけらかんとした声がかけられる。
アンナのせいで気分は最悪だというのに、人の気も知らないで気楽なものだ。
「どうか駄々を捏ねずに、早く出てきてくださいね。ミルクティーも冷めてしまいますから」
何より肝心のルーカスは今、どこで何をしているのだろう。
まさか、自分よりも色気のある大人の女性のところへ──なんて。
そう思うと胸が黒い雲に覆い尽くされて、何故だか無性に泣きたくなった。
「大丈夫ですよ。ビアンカ様は、胸の大きさだけは十分ですから。これから、更なる成長も見込めますし、元気を出して」
最早、慰めにもならない、慰めの言葉だった。
ふわりと、足元を冷たい風が駆け抜ける。
(なんなの、本当に……)
もう返事をする気にもなれなかったビアンカは、ルーカスの顔を思い浮かべて、一人静かに唇を尖らせた。