騎士団長は若奥様限定!?溺愛至上主義
「ビアンカ王女は、可愛らしいのですから。国に帰ってもまた、良い縁談のお話がありますよ」
続けられた王太后の言葉に、ビアンカの中で何かが切れた。
「──私の夫は、ルーカス・スチュアート、ただ一人です」
「え?」
「私は、ルーカスの正妃です」
気が付けばビアンカは、一歩、足を前へと踏み出していた。
「申し訳ありませんが、私は彼と添い遂げるつもりでセントリューズに参りました。なので彼以外の方との縁談の話など、聞きたくもありません」
二人に膝をつくジェドの隣に並び、ビアンカは臆することなく口を開くとツン、と顎を釣り上げる。
「それに、お言葉ですが。自らの命を賭して国を守る彼ら──王立騎士団のことを、そのように侮辱されるのは、どうかと思います」
「あ、あなた、何を言って……っ」
「彼らは国が攻め入られようとした時、先陣を切って戦場に出向き、命を張って戦ってくれるのです。騎士団の敗北は、国の敗北。そんな彼らをゴミ処理をする鴉だなんて……よく、言えますね」
そこまで言い切るとビアンカは腕を組み、自分よりほんの少し目線の高い王太后とアーサーを、真っ直ぐに睨み上げた。
相手はルーカスの母。自分よりも位の高い、先代国王妃だ。アーサーだってまがいなりにも前宰相。
だけど、頭ではわかっていても、どうしても我慢ができなかった。
ルーカスの率いる騎士団とルーカスを貶し、貶めるだけでなく──自らの命を賭けて国を守ろうとする、彼らの尊い意思まで踏み躙ったのだから。
昨日、アンナから黒翼の騎士団の名と由来を聞かされた時とはまるで違う。
嘲笑と蔑みを含んで放たれた言葉を、ビアンカは聞き流すことなどできなかった。