騎士団長は若奥様限定!?溺愛至上主義
「それで、姫はお二人にどんな失礼をしたのでしょう」
何もかもを見透かした様子で、淡々と言い放ったルーカスは、黒曜石のような黒い瞳を真っ直ぐに二人へと向けていた。
清廉な彼の纏う冷たい空気が、あたり一体を包み込む。
王太后とアーサーに対する姿勢は低いものの、彼の放つオーラはどこか高圧的で、その場にいた全員が当然のように息を呑んだ。
「フ、フン……ッ!! あなたに話すようなことではないわ! だけど以後、気を付けなさい!! 行くわよ、アーサー!」
「ぎょ、御意に。王太后殿……!」
二人はそれだけを言うのが精一杯だったのだろう。
王太后は顔を赤くしたままドレスの裾を翻すと、アーサーと侍女たちを連れ、そそくさとその場から立ち去った。
アーサーはともかくとして、どこか他人行儀なルーカスと王太后のやり取り。
ビアンカは心の中で首をひねったけれど、それを口にするほど空気が読めないわけではなかった。
「……何をやってる」
二人の姿が完全に見えなくなったあと、放たれたのは酷く、無機質な声だった。
ビアンカとジェドは、思わずビクリと身を固くすると、喉を鳴らした。
ベッドの中でビアンカに向けたルーカスの声とは、まるで違う。
なんの感情も感じない、冷たく、突き放すような声だ。