騎士団長は若奥様限定!?溺愛至上主義
『わぁ……素敵……』
幼いビアンカは、何かに引き寄せられるように、その噴水へ向かって歩を進めた。
身体が甘い花の香りに包まれ、夢の世界を歩いているようだった。
けれど、噴水まであと数歩というところで、自分と同じくらいの小さな男の子がしゃがみ込んでいるのを見つけて足を止めた。
(あの子……)
男の子は一際美しく咲き誇る赤い薔薇の前で石像のように固まっていて、近くに立つビアンカに気付く様子もない。
『ねぇ、そこで何をしてるの?』
『わ……っ!?』
背後から声をかけると、一瞬、脅えたように肩を揺らした男の子は、弾かれたように振り向いた。
艶のある黒髪と、黒曜石のように綺麗な黒い瞳。陶器のような美しい肌が印象的で、幼いビアンカは一瞬ゴクリと息を飲んだ。
『そ、そっちこそ、こんなところで何してるんだよ』
綺麗な目を細めてビアンカを睨んだ男の子。
見れば彼の手には汚れた薔薇が握られていて、ビアンカは思わず目を丸くした。