騎士団長は若奥様限定!?溺愛至上主義
「実は私、幼い頃に一度だけ彼……ルーカスに、会ったことがあるんです。父に連れられてきたセントリューズの晩餐会に出席する前、王宮内の庭園で、まだ少年だったルーカスに……」
記憶の中の彼は手折られた薔薇の花を手に、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
そんな彼を見たら、自然と惹き寄せられるようにそばに寄っていたこと。
そして彼の手から、土のついた薔薇を受け取ったことだけはハッキリと覚えている。
「だから私は、ここに来るまでは彼のことを花好きの優しい青年だとばかり思っていたんです。でも、いざ彼と再会したら、彼は冷酷無情と言われる黒翼の騎士団……いえ、王立騎士団の騎士団長を務めていました」
真っ黒な制服に身を包むルーカス。不吉の象徴である鴉になぞらえて、黒翼の名を背負っていたこと。
彼が何を考えているのかわからず、真っ黒な瞳を呆然と見つめるしかなかったこと……。
「最初は彼……ルーカスが、とても怖いと思いました。けれど彼と一週間……たった一週間ですが、一緒に過ごすうちに、やっぱり彼は本当は冷酷無情なんかではない、心優しいままなのではないかと思ったんです」
騎士団長であるルーカスの顔と、自分の前で見せる顔。
ビアンカはルーカスと過ごした一週間を思い出し、思わず胸の前でギュッと両手を握り締めた。
本当の彼を知りたい。こんなにも彼のことをもっと良く知りたいと思うのは──どうしてなのだろう。