強引社長といきなり政略結婚!?

どうしてそんなことを言うんだろう。
突然の朝比奈さんの言葉に、不本意にも心が揺れる。
でもきっと彼は、私自身を渡したくないという意味で言ったわけじゃない。藤沢ゴルフ倶楽部を私の名前に置き換えて言っただけだろうから。


「渡す気がなくても、渡さざるを得ないって場合もありますよね」


挑発するように浩輔くんが言うと、朝比奈さんは言葉に詰まってしまったように見えた。ぎゅっと握りしめた彼の拳が震えている。
そんな朝比奈さんを見て不安が押し寄せる。
無言のまましばらく睨み合ったあと、朝比奈さんによってドアが閉められた。


「行くよ、汐里」


私の腰に回された彼の手に力が込められる。
どことなく機嫌の悪い空気が彼から伝わってきた。

朝比奈さんの車の助手席に乗せられ、車が発進する。


「会長が失礼なことを言って悪かった」

「いえ……。パーティは大丈夫だったんですか?」

「ごめん、落ち着いて話せる場所まで行ってからにしよう」


それだけ言うと、朝比奈さんは黙り込んでしまった。
どこまで行くつもりなのか、朝比奈さんがただひたすらハンドルを握り続ける。気づいた時には高速を走っていた。

訪れた夜の中、オレンジ色の街灯が次から次へと通り過ぎていく。
行き先を聞けるような雰囲気ではなくて、私はただ黙って乗っているしかなかった。

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